しかしな、とエイリアはこうも思う。
自分が完全に覚醒してから始めて学んだことは、戦うことだった。
恐れず、憎まず、愛さず、哀れまず、ただ目の前の敵を討ち滅ぼせ、ということを、
彼女はゼクロスから徹底的に叩き込まれた。(戦いのイロハを把握してない彼女への配慮でもあったようだが)
だが、同時に自分がクローン、すなわち人から許されざる人であることを知ったエイリアが覚えたのは、恐怖であった。
それゆえにセシリアの愛を渇望し、それを一身に受けていたレイリアを憎んだ。
それでもそれ以外にはゼクロスの教えを忠実に守る気ではいた。
しかし勇者軍は違う。恐れることも、憎むことも、愛することも、哀れむことも、ここの人間達はそうしている。
そして自分の中には、少なくともその考え方の礎となった者たちの血が通っている。
たとえ自分が、人の身体から生まれなかった存在であるとしてもだ。
―――クローンの自分でも、最初に覚えたことが戦いであった自分であっても、
こんな感情はもてるのだとエイリアは改めて感じていた。
少なくとも、あの時恐怖を感じた自分は、クローンである前にひとつの命であるのだと。
……だからレイリアのリアクションに呆れもするし、その笑顔に幸福も感じる。
「じゃ、これで全部だ」
「あーあ。結局今回もエイリアのドレスアップが見れなかったなー」
「……いい加減にしてくれ。私はそんなものはごめんだって言ってるだろう」
考えてみれば、メシア戦線のときはウィルヘルムの一件の影響もあり、
まともにこんな経験をすることがなかった。買出しも大概は物資調達だった気がする。
それが今、バトルスーツからキャミソールなどのラフな服装に着替えて、
うっかり可愛いワンピースを眺めて、流行だというジェラートを食べて、銀色のアクセサリーを試着してみて。
―――レイリアと、宿敵と思っていた相手と一緒に、都会でショッピングだなんて考えてもみなかった。
「お姉ー!お待たせー!」
やがて、奥に家族の姿が見えてくる。手作りのベビーカーですやすやと眠るブルーノと、
すっかり荷物持ちと化した義兄サイモン。そして、愛しき姉のセシリア。
「待たせたな、姉さん」
「いいわよ、二人とも。それよりも、何か可愛いもの買ったの?」
「なっ……や、やめろ、姉さんまで!」
「アハハハ!お姉、それがね〜……」
いつものようにからかわれ、いつものように誰かが笑う。
エイリア=ルストは今、ただひとつの命としての幸せをかみしめている。