No.021 ハイラム=ガトーの場合


これは、彼ゲーム版から1年前(17歳)ほどの話である。
彼はもう、ハイアード・タウンのならず者達を纏め上げる者にまでのし上がっていた。

基本的には、ならず者集団と呼称されているものの、ハイラムは
その力を極力悪行に使わせないように努力していた。
それこそ、そのためにはどんな労力も惜しまないだけの力もあった。
だからこそ、余所者に対して排他的な部分もあったのかもしれなかったが……
余所者は時として、平和な日常に害をもたらす事がある。
そんな害をもたらす者だけを正確に見抜き、そして排除するのがハイラムだった。
そんな彼が気分良くコーヒーを飲んでいると、部下がドタドタとやって来る。
「ハイラムさん! 大変だ!!」
だが、彼は落ち着き払っていた。年齢不相応なまでに。

「……騒ぐんじゃねぇ。ただでさえ汚ぇ部屋の埃が舞うだろうが」
「そんな事言ってる場合じゃねぇですぜ! どこの奴等か知らないけど、傭兵くずれが集団で来やがったんです!」
「……無闇に事を荒立てるんじゃねぇ。俺が行って話を付けてやる。どこだ?」
「へい、教会前で乱痴気騒ぎしてまさぁ」
ハイラムはそれを聞くと、ロングコートを羽織り、自慢の槍を持って外に出た。
「……教会前で馬鹿が大騒ぎするようじゃ、世も末だな」
「へえ、まったくで」
「お前はいい。来るな。足手まといになる」
付いて来ようとした部下を追い払い、ハイラムは足早に、しかし静かに教会へ向かう。
ぶはははははははははは!
無思慮で無遠慮な笑いが、次第にはっきりと聞こえてきた。

「おい! お酌してくれや、ははッ!」
酔っ払いの傭兵一団の声である。美人と有名な、教会のシスターに目を付けている。
「嫌です!!」
毅然とした態度で断るシスター。だが、大勢の男に睨まれると、いささか迫力負けしている。
「どうしても?」
おどけた……と言うよりふざけた調子で傭兵一団が彼女に迫る。
「どうしてもです! 私に手を出すというのなら……!」
果物ナイフを取り出し、自らの首に突きつける。
男達が驚いた視線を向ける。が、それはシスターに対してではない。
ひょいっ。
後ろから果物ナイフをあっさり奪い取ったハイラムに対して、である。

「ハイラムさん……?」
「やれやれ、シスターが刃物とは感心しねぇな」
ぽいっ。
ざくっ!
ハイラムはそのナイフを、傭兵のリーダー格の足下5ミリの地点に向け、正確に投げ刺した。
「悪かったな、シスター。あんたがどこまで粘れるか途中まで見てたんだが……案外気が短いな」
「もうっ。ハイラムさんも人が悪いですよっ」
シスターはちょっと怒ったようだが、ハイラムは意にも介していない。
傭兵のリーダー格はゆっくり立ち上がり、ハイラムに言葉を投げかけた。
「ほう、これがこの町流の挨拶かい? こりゃまた物騒なこった」
そう言うと、剣を抜き放つ。

「物騒なのはどっちだ。長刀を抜いて言う台詞じゃねぇな」
「ナイフをいきなり投げる手前ェよりゃマシだ」
なるほど、互いに言い分はもっともである。
「サルか手前ェ。お話ってのは素手でするモンなんだよ」
そう言うと、ハイラムは槍をシスターに手渡す。
「その台詞はそっちに返すぜ。人間ってのは武器を使うから人間なんだよ!!」
「乱痴気騒ぎなら酒場かどっかでやれってんだ! ここは教会だぜ!?」
「ふん、ここのマフィアの頭目たぁ思えない台詞だな、ハイラム=ガトー!!」
ハイラムは闇世界では、かなりの有名人のようであった。
「闇の世界の人間なら、人に迷惑かけてナンボだ、違うか!?」
その台詞を合図にするように、他の全員が武器を持つ。
「……違うな。それが分からん限り、手前ェはいつまでもザコだ」
「……殺せぇ!!」
リーダー格の合図と共に、リーダーもろとも全員がハイラムに遅いかかる。

「……話にもならねぇ」
二十人近くいた傭兵一団は、ハイラム一人に壊滅させられた。
それも、ものの一分で。
「大丈夫か、シスター」
「私は大丈夫ですけれど……この人達、どうしましょう?」
「そっちの始末は俺の部下がやっとくさ」
そう言うと、彼はまたさっさとその場を去って行く。物陰からハイラムの部下が出てき始めた。

彼はそんな日常を送っていた。その彼が勇者軍主力部隊と関わるには、
今しばらくの時を必要とする。


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